教授会の権限は、そんなに強くない
中央教育審議会が、教授会の権限を限定する素案を示した。
こうした情報が出て、以下のような記事が上がったりすると、教授会に対するイメージが悪くなり、世間に誤解されるのでは、という懸念がある。
具体的には、「社会を知らない専門バカの大学の先生が、寄り集まって改革の邪魔をしている」というような、暗い負のイメージだ。
だから、少なくともぼくが勤務する大学では、はっきり言って教授会の権限ってそんなに強くない、ということを書き記しておきたい。
そして、私学はわりと同じじゃなかろうか?
なお、国立は教授会の権限が強いと聞いたことはある。もしかしたら、国立大学を念頭に置いた素案なのかもしれない。
以下は、この中教審の素案に関する記事である。
教授会の権限を限定 中教審素案、学長主導の大学改革促す(日本経済新聞 11/19)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1903Z_Z11C13A1CR8000/
大学のガバナンス改革を議論している中央教育審議会の組織運営部会は19日、従来よりも教授会の権限を限定する提言素案を示した。教授会の審議事項を、教育課程の編成や学生の身分に関する審査、学位授与などと具体的に規定した。
教授会の役割を教育研究関係に絞ることで、人事や予算配分など経営の重要事項の決定権限は学長にあることを明確にし、学長主導の大学改革を促す。年内に提言をまとめ、文部科学省が法令を改正する。
学校教育法は「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない」と規定しているが、重要な事項の解釈が曖昧なため「教授会が大学経営にも影響を与え、学長主導の改革を妨げている」といった声が根強かった。(以下略)
ちなみに、中教審というのは、実は単なる文部科学省の諮問機関に過ぎないわけだが、その答申が基本的には国の文教政策に反映されるので、取り上げられやすいのである(と、ぼくは理解しているのだが、間違っていたら指摘いただければありがたい)。
上記の記事には、「教授会が大学経営に影響を与え、学長主導の改革を妨げている」といった声が根強かった、とあるが、わが勤務先では、そんなことはない。
わが勤務先では、大学の重要な決定は、学長・学長補佐(副学長)・学部長・事務局長・各セクションの事務局部長、あたりで構成される会議でなされている。
ただし、その原案は、結局は学長・学長補佐(副学長)・事務局長レベルで考えられているので、トップダウンに近い。
あえて言えば、提案された原案は、重要事項であればそれぞれが学部に持ち帰って検討する(「持ち帰り」)の形をとることが多いので、
最終的に多数決になってしまいがちだ、という問題はある。
このやり方だと、民主的ではあるものの、トップに「これは絶対やるんだ!」という強い意志がなければ、多数決によって最終的に微妙な経営判断に落ち着いてしまうことは確かにある。
それを、教授会の抵抗、改革の妨げ、と呼ぶこともできるとは思う。
だが、逆に言えば、教授会が改革の妨げになるかどうかは、トップ次第ということだ。
トップが「これは絶対やるんだ!」という強い意志を持ったことに対して、教授会が最後まで反対することは現実に難しい。
というのも、教授会というのは、それぞれの学部における教育・研究に強い権限を持ってはいるけれど、学部の運営を単独えるわけではないからだ。
学部の教育・研究システムは、大学全体のシステムに相乗りして初めて成り立っている。
入試やキャリア支援や、もろもろ全て、それぞれの学部で独自に面倒を見て、自分たちでお金を稼いで、予算を組むところまで自立しているのなら、強硬に反対することは可能だけれども、そうではない。
実際に、諸星裕先生(桜美林大学)はその著書の中で、大学の意思決定にあたり、「うちの学部はやりたくない!」といったように教授会の反対が根強い場合、「じゃああなたの学部は、全部自前でやって利益を出して、入試の広報からキャリア支援まで、何もかも学部独自で運営してくださいね」と言うと、それ以上反対できないと指摘している。
繰り返しになるが、全学的な経営判断において、教授会の影響範囲は限定的で、大抵なことはトップの意思次第で可能ということである。
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なお、素案では、教授会(学部)で採用等を決めている教員人事について「配置」と「選考」を分けて考えることが提案されていて、この部分については、大いに賛成したい。
「選考」は教授会でやったらいいけど、「配置」は、大学の強みを考えてトップが決めよう、ということだ。
定年退官したポストに自動的に同じ学問分野の後任が就く、というようなやり方だと、大学の資源を効率的に配分できませんと。全学的なミッションに沿ったデザインができませんよと。これはその通りだと思う。
素案の一次資料は、以下に掲載されている。ご参考まで。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/035/siryo/1341577.htm